キャリパースメソッド(CPM)が生まれた背景

「パフォーマンスをあげるためには、胆力の強化が必要だよ。」私が運用の仕事をしていた頃、勝負師として名高い上司からこのようにアドバイスをされたことがあります。

「胆力」という耳慣れない言葉に興味を抱くと同時に、そのようなメンタルな側面に関する教えは運用関係の本にはほとんどなく、どのように身につけたらいいのか悩みました。

運用の仕事を始めた頃は、緊張や不安がつきまといます。ところが、ある程度成功すると今度はポジション枠(会社から任せられる資金)が増えることによるプレッシャーや収益目標を達成しようとする責任感や欲がでて、どうしても力が入ってしまいます。

これらの感情をどのようにコントールすればいいのか自問自答しました。

ある日、テレビでスピードスケートの選手が「コーナーを曲がるときに自分が怖いと思わないようにすることが勝敗を決める」という発言をされ、はっとする思いがしたものです。

「自分の心」が自らの限界を作っているのだと。「ビジネス」と「スポーツ」というように分野は異なっても勝負における世界でのメンタル面には共通点があるのだと思いました。それ以来、心身ともにリラックスしなければ「パフォーマンス」は良くならないということを実感しました。

そのよう中、10代のときに体験した創作ダンスの世界にヒントを得ました。創作ダンスは目に見えないものを身体で表現する必要があるため、運動と芸術性を兼ね備えています。ですから、「想像力」「創造性」が豊かになるのです。

例えば、太鼓の音に合わせてある状況をイメージし「即興」で踊るという経験をしましたが、これは「視力」以外の「五感」を呼び覚まし、イメージによる表現を豊かにしていきます。

つまり、大切なことは日常の中で単にものを見るのではなく、多角的な「視点」でそこに至るまでの「プロセス」について「想像」することだと感じるようになりました。

話を元に戻しますが、運用の仕事はコンピューターの画面を見て判断する仕事なので、当然「視力」に頼ることになりますが、実はそれ以外の「感覚」を使う必要があるのです。

目の前のことに「集中」しつつも、全体が見えている状態にするには、他の感覚に意識を向けながら、自分自身を「鳥の目で俯瞰する」必要があることに気づいたのです。

つまり、高い視点から物事を見つめてみる。多角的な視点から物事を見つめてみる。私はこれを「展望思考」と位置付けて、日々実践してみようと思ったのです。

そのことに気づいてからというもの、自然の声に耳を傾けながら自分自身を見つめることを心がけました。

例えば、皇居のお堀で泳ぐ白鳥の姿を見て「優雅に見えるけれども、必死に水かきをしている姿」が運用の仕事にも似ていると感じたものです。

このように距離を置いて「観察」してみる。例えば、皇居内の鳥のさえずりや色とりどりの花を見ていると、自分の中に「エネルギー」がわいてくるのを感じました。

このような体験からオリジナルキャリパース・メンタルメソッド(CPM)は生まれました。そして、若手の指導やキャリア相談にも応用してみたところ、徐々に効果が現れてきました。

また、様々な若手に接するうちに、「繊細ゆえに大胆になれない」、「責任感ゆえにリラックスできない」など日本人が持つ特性があることにも気づきました。

「強み」「弱み」はまさに紙一重。しかし、そのことに自分では気づきにくいものです。ですから、コミュニケーションを通じて、「気づき」を深め、自分の心をみつめるお手伝いができればと思っています。

(株)キャリパース代表

伊東 明子